今回は、前回に続いて令和6年度秋期試験の午前Ⅰ共通問題の解説を行っていきます。今回で、令和6年度秋期試験の午前Ⅰ共通問題の解説は終わりです。
今回解説するのは、問26〜30です。これらの問題で使用されていた用語は、以下の5つです。
- コ・クリエーション戦略
- ダーウィンの海
- 正味所要量
- 経営理念、経営戦略、事業戦略
- 労働者派遣法
是非、最後までご覧いただけると嬉しいです。
コ・クリエーション戦略
コ・クリエーション戦略の特徴はどれか。
ア 企業の営業部門と製造部門が協働し、特定の商品・サービスに限定して、徹底的に自前主義にこだわることによって強みを発揮する。
イ 顧客が自らのアイデアを商品の仕様に具体的に落とし込み、企業に製品を製造してもらう。
ウ 顧客や企業ネットワークの力を活用し、商品・サービスだけでなく、顧客の経験までを含めて差別化可能な価値を創造する。
エ 自社に不足する経営資源をM&Aによって強化し、従来にない価値をより素早く創造する。
引用:情報処理安全確保支援士試験 令和6年 秋 午前Ⅰ問26
解答
ウ
コ・クリエーションの概要
コ・クリエーション戦略とは、企業が顧客やパートナー企業と共に価値を創造する戦略です。この戦略の特徴は、単なる商品やサービスの提供にとどまらず、顧客の経験や感情なども含めて価値を生み出すことです。顧客と企業が双方向にやり取りを行い、商品やサービスの設計や提供に関与することで、より深いエンゲージメントと差別化された価値を実現します。
各選択肢の検討
- 選択肢ア:自前主義にこだわること
自前主義は、企業が外部に頼らず、すべてを自社で完結させる経営方針を指しますが、コ・クリエーション戦略はむしろ外部の力を活用する点に特徴があります。このため不適切です。 - 選択肢イ:顧客が仕様を具体化し、企業が製造する
これはマスカスタマイゼーション(大量個別化生産)や受注生産の考え方に近いですが、コ・クリエーションでは顧客の役割は「製品仕様の具体化」だけではなく、商品開発プロセス全体への関与が重視されます。そのため部分的には関連しますが、コ・クリエーション戦略の特徴を十分に反映していません。 - 選択肢ウ:顧客や企業ネットワークの力を活用し、価値を創造する
この選択肢がコ・クリエーション戦略を最も正確に表しています。商品・サービスだけでなく、顧客の経験も含めた価値を共に創造することが、コ・クリエーションの本質です。 - 選択肢エ:M&Aによる価値創造
M&A(企業買収)は経営資源の補完や迅速な事業拡大を目的とする戦略であり、コ・クリエーションの顧客参加型の価値創造とは異なります。このため不適切です。
補足
コ・クリエーションの具体例として、顧客がデザインに参加できる製品開発プラットフォームや、コミュニティを活用した新サービス開発があります。また、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を重視する近年の企業活動において、重要な戦略として注目されています。
コ・クリエーションのまとめ
コ・クリエーションとは、企業が顧客やパートナーと協働して価値を創造する戦略です。商品やサービスの設計から提供まで、顧客が深く関与することで、単なる物的価値を超えた経験や感情を含む価値を提供します。これにより、企業は顧客とのエンゲージメントを深め、差別化された価値を実現します。
ダーウィンの海
企業における研究、開発、事業化、そして産業化へとステージが移行する過程の中で、事業化から産業化に移行するときの、競合製品と競争過程にある障壁を何と呼ぶか。
ア キャズム
イ 死の谷
ウ ダーウィンの海
エ 魔の川
引用:情報処理安全確保支援士試験 令和6年 秋 午前Ⅰ問27
解答
ウ
ダーウィンの海の概要
企業における事業化から産業化へ移行する際に直面する障壁は、ダーウィンの海と呼ばれます。この障壁は、製品や技術が事業として一定の成功を収めた後、市場全体で広く受け入れられ、競争優位を維持するための過程で生じる課題を指します。
ダーウィンの海では、競合製品との競争力の差が明確に問われ、製品の価格競争、品質の維持、市場シェア拡大など、産業化に必要な複数の要素を乗り越える必要があります。この段階で失敗すれば、企業は市場で淘汰されることになります。この名前は、進化論を提唱したダーウィンに由来し、適者生存の競争環境を象徴的に表現したものです。
各選択肢の解説
- 選択肢ア:キャズム
キャズム(Chasm)は、主に革新的な新製品が市場に投入された後、初期市場(アーリーアダプター層)から主流市場(アーリーマジョリティ層)へ拡大する際に直面するギャップを指します。この段階は、技術革新の波及における重要な障壁ですが、事業化から産業化の課題とは異なります。 - 選択肢イ:死の谷
死の谷(Valley of Death)は、研究や開発段階から事業化へ進む際に必要な資金や経営資源の不足による障壁を指します。多くの企業やプロジェクトがこの段階で失敗するため、「死の谷」と表現されます。 - 選択肢ウ:ダーウィンの海
事業化が成功した後、さらに市場全体で競争を勝ち抜き、産業として確立する際の障壁を指します。ここでは、技術だけでなく、ビジネスモデルや価格競争力、持続可能な供給体制などが問われます。 - 選択肢エ:魔の川
魔の川(Devil’s River)は、基礎研究から応用研究、製品開発へと進む際の障壁を指します。この段階では、基礎研究の成果を実際の応用や製品化に結びつけることが難しいため、多くのプロジェクトが停滞します。
ダーウィンの海のまとめ
ダーウィンの海とは、企業が事業化の成功後に産業化へ移行する際に直面する障壁を指します。この段階では、技術革新だけでなく、価格競争力や品質の維持、持続可能な供給体制など、競争力を総合的に高める必要があります。適応できなければ市場で淘汰される厳しい環境を象徴しています。
正味所要量
構成表の製品Aを300個出荷しようとするとき、部品bの正味所要量は何個か。ここで、A、a、b、c の在庫量は在庫表の通りとする。また、他の仕掛残、注文残、引当残などはないものとする。
品名 構成部品a 構成部品b 構成部品c A 3 2 0 a – 1 2 構成表 単位:個
品名 在庫量 A 100 a 100 b 300 c 400 在庫表 単位:個 ア 200
イ 600
ウ 900
エ 1500
引用:情報処理安全確保支援士試験 令和6年 秋 午前Ⅰ問28
解答
イ
正味所要量の概要
正味所要量とは、製品や部品を生産するために実際に必要な数量を指します。これは、総所要量から現在の在庫量や既存の発注残を差し引いて算出されます。生産計画や資材調達の効率化に欠かせない概念で、適切な在庫管理とコスト削減を支える重要な役割を果たします。
問題の整理
- 製品Aを300個出荷します。
- 構成表から「製品A」を作成するには、 1個につき、
部品aが3個、部品bが2個必要です。 - 構成表から「部品a」を1個作成するにはに、
部品bが1個、部品cが2個必要です。 - 在庫表から、在庫状況は、
製品A:100個
部品a:100個
部品b:300個
部品c:400個
です。 - 仕掛残、注文残、引当残はありません。
計算の算出方法
- 製品Aの不足数:出荷予定数300個から在庫100個を引くと、新たに製造する必要がある製品Aは200個です。
- 部品aの必要数:製品A 1個につき部品aが3個必要なので、製品A 200個の製造には部品aが200個 × 3個 = 600個必要です。
- 部品aの不足数:部品aの必要数600個から在庫100個を引くと、新たに用意する必要がある部品aは500個です。
- 部品bの必要数(製品A由来): 製品A 1個につき部品bが2個必要なので、製品A 200個の製造には部品bが200個 × 2個 = 400個必要です。
- 部品bの必要数(部品a由来): 部品a 1個につき部品bが1個必要なので、上記で求めた不足分の部品a 500個には、部品bが500個 × 1個 = 500個必要です。
- 部品bの総必要数:製品A由来の部品b 400個と、部品a由来の部品b 500個を合計すると、部品bは合計900個必要です。
- 部品bの正味所要量:部品bの総必要数900個から在庫300個を引くと、新たに用意する必要がある部品bは600個です。
したがって、部品bの正味所要量は選択肢イの600個です。
ポイント
- 部品bは製品Aを製造するために直接必要となる分と、部品aを製造するために間接的に必要となる分の両方を考慮する必要があります。
- 「正味所要量」は、「総所要量(必要な部品の総数)」から「手持ちの在庫量」を差し引いたものです。
正味所要量のまとめ
正味所要量は、製品や部品を製造する際に必要な純粋な数量を意味します。在庫や既存の発注量を考慮し、総所要量から差し引くことで求められるため、無駄を省いた資材管理が可能です。生産計画の精度向上や調達プロセスの最適化において、重要な指標として活用されています。
経営理念、経営戦略、事業戦略
企業経営において、経営理念、経営戦略、事業戦略は、経営理念を最上位とするピラミッドを形成している。経営理念、経営戦略、事業戦略の関係性で適切なものはどれか。
ア 経営理念、経営戦略、事業戦略のピラミッドは上位ほど具体的な内容であるのに対して、下位にいくほど抽象的な内容となっている。
イ 経営理念、経営戦略、事業戦略のピラミッドは上位ほど短期的な視点であるのに対して、下位にいくほど中長期的な視点となっている。
ウ 経営理念を達成するために経営戦略を策定し、経営戦略という目標を達成するために事業戦略に分解する。
エ 経営理念を達成するために事業戦略を策定し、事業戦略という目標を達成するために経営戦略に分解する。
引用:情報処理安全確保支援士試験 令和6年 秋 午前Ⅰ問29
解答
ウ
解説
企業経営における「経営理念」「経営戦略」「事業戦略」は、それぞれ異なる役割を持ちながら、ピラミッド型の階層構造で相互に関連しています。
- 経営理念
経営理念は、企業の存在意義や価値観、長期的な方向性を示す最上位の指針です。企業の使命(ミッション)や目指す姿(ビジョン)、大切にする価値観(バリュー)が含まれ、企業活動全体の基盤となります。 - 経営戦略
経営戦略は、経営理念を実現するための全社的な計画や方針です。市場での競争優位性の確立や、企業がどの分野でどのように成長を目指すのかを定める中長期的な戦略を指します。経営理念に基づいて、全社レベルの目標やリソース配分を具体化します。 - 事業戦略
事業戦略は、経営戦略を事業単位や部門レベルで実行するための具体的な方針や施策を指します。特定の製品、サービス、市場にフォーカスし、競争環境に応じた具体的なアクションプランを策定します。経営戦略の一部を担い、より現場レベルに近い視点で実行されます。
「経営理念」「経営戦略」「事業戦略」の関係性
- 経営理念は、企業全体の行動や意思決定の土台を形成し、その実現に向けて具体的な方向性を定めるのが経営戦略です。
- 経営戦略は、さらに各事業の特性や市場環境に応じた具体的な事業戦略によって現場で実行されます。
- このように、経営理念→経営戦略→事業戦略の順に具体化され、全体の整合性が保たれることで、企業の目指す姿が達成されます。
2. 各選択肢の検討
- ア:上位ほど具体的で、下位ほど抽象的
→誤り
「上位ほど抽象的で、下位ほど具体的」というのが正しいため、この選択肢は逆の説明になっています。 - イ:上位ほど短期的で、下位ほど中長期的
→誤り
「上位ほど中長期的で、下位ほど短期的」というのが正しいため、この選択肢も逆の説明になっています。 - ウ:経営理念を達成するために経営戦略を立てるし、経営戦略を達成するために事業戦略を分解する
→正しい
経営理念が最上位であり、その実現のために戦略経営が策定され、さらに具体的的な事業戦略に展開されます。 - エ:経営理念を達成するために事業戦略を立てし、事業戦略を達成するために経営を戦略分解する
→誤り
「経営理念 → 経営戦略 → 事業戦略」という流れが正しいため、この選択肢は順序が間違っています。
経営理念、経営戦略、事業戦略のまとめ
経営理念、経営戦略、事業戦略は、企業の活動を支えるピラミッド型の階層構造を形成しています。最上位に位置する経営理念は企業の存在意義や価値観を示し、全社的な方向性を規定します。その理念を実現するために中長期的な全社レベルの計画を立てるのが経営戦略であり、それを事業単位で具体化し、実行するのが事業戦略です。これらが一貫性を保ちながら連携することで、企業の目標達成が可能になります。
労働者派遣法
大規模なシステム開発を受注したA社では、不足する開発要員を派遣事業者であるB社からの労働者派遣法によって補うことにした。A社の行為のうち、労働者派遣法に照らして適切なものはどれか。
ア システム開発が長期間となることが予想されるので、開発要員の派遣期間を3年とする契約を結ぶ。
イ 派遣候補者の履歴書及び業務経歴書の提出をB社に求め、書類選考を行い、面接対象者を絞り込む。
ウ 派遣された要因が大きな作業負担を負うことが見込まれるので、B社に20代男性の派遣を求める。
エ 派遣労働者がA社の指揮命令に対して申し立てた苦情に自社で対応せず、その処理をB社に任せる。
引用:情報処理安全確保支援士試験 令和6年 秋 午前Ⅰ問30
解答
ア
問題の解説
大規模システム開発における派遣要員の活用に関する問題です。労働者派遣法に照らして適切な選択肢を選ぶ問題です。以下に各選択肢の解説と正解を示します。
労働者派遣法の基本原則
労働者派遣法は、派遣労働者の保護を目的とした法律です。重要な原則として、以下の点があります。
- 派遣期間の制限:原則として、同一の事業所への派遣期間は3年が上限です。期間を延長する場合は、一定の手続きが必要です。
- 派遣労働者の特定行為の禁止:派遣先が派遣労働者を特定する行為(事前面接、履歴書選考など)は原則として禁止されています。
- 性別などによる差別的取扱いの禁止:派遣労働者の選定において、性別、年齢などで差別することは禁止されています。
- 派遣先による責任:派遣労働者の就業環境や安全配慮義務など、派遣先にも一定の責任があります。苦情処理についても、派遣先は適切な対応を行う必要があります。
各選択肢の解説
- 選択肢ア:システム開発が長期間となることが予想されるので、開発要員の派遣期間を3年とする契約を結ぶ。
これが正解です。派遣期間は、最長で3年であるため、これが正解になります。なお、期間を延長する場合は、一定の手続きが必要です。 - 選択肢イ:派遣候補者の履歴書及び業務経歴書の提出をB社にもとめ、書類選考を行い、面接対象者を絞り込む。
これは誤りです。派遣先が派遣労働者を特定する行為(履歴書選考、事前面接など)は、労働者派遣法で原則禁止されています。派遣元(B社)から派遣される労働者を特定する行為は、派遣労働者の雇用機会を不当に制限する可能性があるため、禁止されています。 - 選択肢ウ:派遣された要因が大きな作業負担を負うことが見込まれるので、B社に20代男性の派遣を求める。
これも誤りです。性別(男性)や年齢(20代)を指定して派遣を求める行為は、労働者派遣法で禁止されている差別的取扱いに該当します。業務内容に必要なスキルや経験を求めることは問題ありませんが、性別や年齢で限定することは違法です。 - 選択肢エ:派遣労働者がA者の指揮命令に対して申し立てた苦情に自社で対応せず、その処理をB社に任せる。
これも誤りです。派遣労働者の就業に関する苦情は、派遣先(A社)と派遣元(B社)が連携して適切に対応する必要があります。派遣先は、自社の指揮命令に対する苦情に対して、責任を持って対応する義務があります。B社に全てを任せるのは、派遣先としての責任を放棄していると言えます。
労働者派遣法のまとめ
労働者派遣法は、派遣労働者の保護を目的とする法律です。主な原則として、派遣期間は原則3年以内とする制限、派遣先による派遣労働者の特定行為の禁止、性別や年齢による差別的取扱いの禁止が挙げられます。また、派遣先には就業環境の整備や安全配慮義務などの責任が課され、派遣労働者の適切な保護が図られています。
まとめ
今回は、下記について説明しました。
- コ・クリエーション戦略
- ダーウィンの海
- 正味所要量
- 経営理念、経営戦略、事業戦略
- 労働者派遣法
今回は、令和6年度秋期午前Ⅰ共通問題の問26から問30で出題された用語について説明しました。
これからも、Macのシステムエンジニアとして、日々、習得した知識や経験を発信していきますので、是非、ブックマーク登録してくれると嬉しいです!
それでは、次回のブログで!